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衆議院議員 税理士 あんどう裕

ひろしの視点

HIROSHI’S POINT OF VIEW

ひろしの視点

2017/02/06

トランプ大統領就任演説 ~米国の政策転換と日本の取るべき道~

第193回通常国会が始まりました。召集日の1月20日は、奇しくも新しい米国大統領にトランプ氏が就任する日と同日になりました。

そこで、今回のひろしの視点では、トランプ氏の就任演説から読みとることができる米国の政策転換について考えてみたいと思います。NHKのウェブサイトに全文の日本語訳が掲載されていますので、その日本語訳を参考にしています。

まず、明確に米国内で格差が拡大していることを指摘し、それを批判することから始めています。それは、下記の文章に表されています。

『あまりにも長い間、ワシントンの小さなグループが政府の恩恵にあずかる一方で、アメリカ国民が代償を払ってきました。ワシントンは栄えてきましたが、人々はその富を共有していません。政治家は繁栄してきましたが、仕事はなくなり、工場は閉鎖されてきました。既存の勢力は自分たちを守ってきましたが、国民のことは守ってきませんでした。(中略)

何十年もの間、私たちは、アメリカの産業を犠牲にして、外国の産業を豊かにしてきました。(中略)

そして、何兆ドルも海外で使う一方で、われわれの国の富と強さ、そして自信が地平線のかなたに消えていきました。取り残される何百万人ものアメリカの労働者のことを考えもせず、1つまた1つと、工場は閉鎖し、この国をあとにしていきました。中間層の富は、彼らの家庭から奪われ、世界中で再分配されてきました。(中略)

この瞬間から、アメリカ第一となります。貿易、税、移民、外交問題に関する全ての決断は、アメリカの労働者とアメリカの家族を利するために下されます。ほかの国々が、われわれの製品を作り、われわれの企業を奪い取り、われわれの雇用を破壊するという略奪から、われわれの国境を守らなければなりません。保護主義こそが偉大な繁栄と強さにつながるのです。』

この最後の文章に、世界中が驚きました。自由貿易のリーダーを自認していたはずの米国の大統領が、保護主義に転換することを高らかに宣言したのですから。しかし、米国が本当に自由貿易の国であったかと言えば、そうでもありません。かつて「スーパー301条」という一方的に懲罰的な関税を課すことができる規定を設けるなど、自国産業の保護をあからさまにしてきたのも米国でした。日米間でも、繊維、自動車など、日本製品が米国市場に大きく入り込んで米国の業界が苦況に陥れば、必ず政府間の政治問題となって、何らかの譲歩を日本側がしてきました。米国は決して自由貿易のリーダーではありません。それは、思い込みでしかありませんが、世界や米国自身も、米国は自由貿易のリーダーであると考えていました。

しかし、今回、米国大統領が保護主義の利点を明言したことは、世界の経済に大きな影響を与えることになります。トランプ氏は、この文章に至るまでの演説の中で、米国内で今どのようなことが起きているのかを説明しています。ワシントンの一部の人たちは利益の富を得ているが、多くの米国人はその恩恵にあずかっていない。雇用が失われ、中間層が没落している。それが今の米国なのです。そして、米国人の雇用を守るために一定の保護主義が有効であることは間違いありません。

しかし、このことに否定的な意見があることも事実です。例えば、米国が保護主義に走り、関税を上げたりすると、様々な製品が値上がりし、米国の消費者は高い買い物をさせられるようになる。つまり、米国の消費者が被害者になるのだという主張です。しかし、私はこの主張を聞くたびに、違和感を覚えます。産業を守ることにより、そこで働く労働者には高い賃金が支払われます。そもそも外国製品の方が価格競争力があるのは、外国のほうが人件費が安いからです。海外に工場が移転するのは、より安価な人件費を企業が求め、利益追求のために移転するので、先進国の労働者は失業するか、あるいは発展途上国の人件費と同水準まで賃金が下がることを受け入れるかしかありません。特に人件費は「底辺への競争」という言葉があるように、世界中の労働者の賃金が、世界で最も安い賃金にシフトしつつあると言われています。自由競争・自由貿易を徹底すると、このような現象も止められなくなります。

自国内で販売する製品の価格を海外の低価格品の流入によって値下げすることなく、適切な関税を課して維持することは、労働者の賃金の「底辺への競争」から抜け出すことを意味します。労働者の賃金が維持されるからこそ、購買力も維持され、結果的には個人消費も維持されるのです。〝消費者が高いモノを買わされる不利益と、労働者が失業したり賃金が下落したりする不利益と、どちらを取りますか〟というのが、この問題の本質です。

そして政治家は、今の自国においてはどちらを選択すべきかの判断をするのが仕事です。これは、常にどちらが正しいというものでもありません。ある時には、消費者に安いモノを買ってもらうべき時があるでしょう。またある時は、労働者の失業を防ぎ、賃金を保護すべき時もあるでしょう。ところが、今は、「常に自由貿易が正しくて、保護主義は間違っている」という思い込みが溢れかえっていて、結果として労働者が不利益を被り、失業や低賃金で働く労働者が増え、中間層が没落し、一部の富裕層のみが利益を得るという構図になってしまった。これが、この演説の前段でトランプ氏が述べていたことです。

それともう一点、この演説で注目されているのは、「アメリカ第一」という言葉です。

しかし、どの国もその国の国益を第一に考えて政治を行うのが普通です。自己犠牲の精神で外交交渉にあたっている国があるとすれば、それは単なるお人好しであって、国際社会では通用しないでしょう。日本でも、TPP交渉の時には「攻めるべきは攻め、守るべきは守る。国益最優先。」と言っていました。極めて当然のことで、アメリカ第一を批判するのは筋違いというものです。

そして、トランプ氏の演説は、ここから先にも重要なことを言っています。

『私たちは、新しい道、高速道路、橋、空港、トンネル、そして鉄道を、このすばらしい国の至る所につくるでしょう。私たちは、人々を生活保護から切り離し、再び仕事につかせるでしょう。アメリカ人の手によって、アメリカの労働者によって、我々の国を再建します。私たちは2つの簡単なルールを守ります。アメリカのものを買い、アメリカ人を雇用します。私たちは、世界の国々に、友情と親善を求めるでしょう。しかし、そうしながらも、すべての国々に、自分たちの利益を最優先にする権利があることを理解しています。私たちは自分の生き方を他の人たちに押しつけるのではなく、自分たちの生き方が輝くことによって、他の人たちの手本となるようにします。』

インフラ投資による内需拡大を訴えています。これは極めて有効な景気対策となるでしょう。日本においても、まだまだ道路需要はありますし、高速道路も不足しています。鉄道も必要でしょう。そして、政府がこのようなインフラ投資をし、インフラ整備をしなくては、民間は日本全土に投資をすることはできません。自然に企業や人は、仕事を求めて既にインフラが整っている東京へと行かざるを得なくなります。今の東京一極集中の原因の一つは、東京にばかりインフラ投資がされ、地方のインフラ投資を抑制してきたことです。公共事業悪玉論が東京一極集中の原因にもなり、また、デフレ不況の原因にもなっているのです。

このトランプ大統領の巨額国内インフラ投資が呼び水となって米国景気が拡大すれば、日本もそれに追随して国内インフラ投資をするようになるのではないか。米国が良い手本となって、有識者も米国を見習えということを言い始めるのではないかと期待しています。

それからもう一つ指摘しておきたいのは、「アメリカ人の手によって、アメリカの労働者によって我々の国を再建します」という文章です。

そうなのです。自国民の手で自国の再建を果たす。極めて当然のことです。残念ながら我が国では、今、外国人に頼ろうとする政策がどんどん立案されています。グローバル人材に来てもらって、永住権もどんどん与えて、日本の再建をしてもらおう。また、日本を引っ張っていってもらおう。そういう考え方です。どちらが将来の国力を最大にすることができるでしょうか。私は、間違いなく自国民の力で自国民の手で祖国を再建しようとする方が、国力は増大すると思います。日本も、変に外国人に頼ることなく、日本人の力で日本を再建するという気概を持たなくてはなりません。

ところで、この通常国会の総理の施政方針演説に対する代表質問で、大変気になる質問がありました。それは、共産党の志井委員長の質問です。

以下に、その質問を引用します。

『次に、経済政策はどうあるべきかの根本について質問します。まず今日までの20年間に、日本の経済社会にどのような変化が生まれたかについて、総理の基本認識を伺います。私は3つの特徴的な変化が生まれたと考えます。

第一の特徴は、富裕層への富の集中が進んだことです。純金融資産5億円以上を保有する超富裕層では、一人当たりが保有する金融資産は、この20年間で、6.3億円から13.5億円へと2倍以上に増えました。

第二の特徴は、中間層の疲弊が進んだことです。労働者の平均賃金は1997年をピークに年収で55万6千円も減少しました。政府の国民生活基礎調査では、この20年間で、生活が「苦しい」と答えた人が42%から60%と大きく増える一方で、「普通」と答えた人は52%から36%と大きく減りました。

第三の特徴は、貧困層の拡大が進んだことです。この20年間で、働きながら生活保護水準以下の収入しかないワーキングプア世帯は、就業者世帯の4.2%から9.7%と2倍以上となりました。「貯蓄ゼロ世帯」は3倍に急増し、30.9%に達しています。』

共産党の質問の時には、どうしても自民党席からは“どうせ共産党の言うことだから”という雰囲気で、まともに取り合わないところがありますが、この質問の指摘は、これは真摯に受け取る必要があると思います。

トランプ大統領が演説の前段で述べていた米国の状況。富が富裕層に集中し、中間層が没落して不平不満がたまっていく。今まさに、日本でも同じ現象が起きている。そのことを共産党が指摘をしてくれているのです。この問題にしっかりと向き合い解決していくことが、自民党の長期安定政権につながることは間違いありません。

今年は、世界で大きな政策転換が進む年となるでしょう。トランプ大統領がどのような政策を実行するのか、今はまだ分かりません。外交や安全保障もどのような対応をするのか、全く未知数です。もしかしたら、世界中が大混乱になる可能性もあるでしょう。日本も地に足をつけた堅実な政治を実行することが求められています。

-「ひろしの視点」第29号(2017年1月)より-