「自然災害大国」における国土強靱化「投資」の財政措置に関する緊急提言

日本の未来を考える勉強会
平成30年8月

我が国では、台風、豪雨、豪雪、地震、津波、噴火等の自然災害により、毎年数多くの人命が失われている。(参考資料1)さらに、海水温の異常な上昇等を背景に現在、西日本豪雨のような災害が頻発する恐れが拡大している(図1)。

このような状況であるにもかかわらず、我が国の公共事業予算は削減され、その結果、治山・治水対策は極めて不十分な水準にある(図2)。同時に、首都直下・南海トラフ地震巨大洪水・高潮などの数十兆円、数百兆、数千兆円規模の経済被害数十~数百兆円規模の財政被害をもたらす「国難というべき災害の発生」も危惧されている(図3)。

一般財団法人国土技術研究センターのホームページには下記の記載もある。

「日本の国土の面積は全世界のたった0.28%しかありません。しかし、全世界で起こったマグニチュード6以上の地震の20.5%が日本で起こり、全世界の活火山の7.0%が日本にあります。また、全世界で災害で死亡する人の0.3%が日本、全世界の災害で受けた被害金額の11.9%が日本の被害金額となっています。このように、日本は世界でも災害の割合が高い国です。」

我が国はまさに「自然災害大国」なのであり、したがって我が国において「国土強靱化」を徹底的に進めていくことが必要不可欠であることは論を待たない。ところが、これまでの日本では諸外国との比較で公共事業費の比率の高さを指摘され、批判され、公共事業費削減の論拠とされた。自然災害大国である日本が世界各国と比較して公共事業費の比率が高いのは必然であり、また、そうでなくては国民生活の安心安全を守ることができないのである。

災害に対する強靭性・レジリエンスを抜本的に向上するためには、治山・治水投資、耐震強化、インフラ強化、そして、地方へのインフラ投資等を通した効果的な「投資」が不可欠である。例えば土木学会では、国難級の地震、洪水、高潮の被害は、適切な投資を行えば3、4割程度から、完全解消を意味する10割、縮減できることを示している。(図4

しかし我が国には、プライマリー・バランス黒字化目標という財政規律が存在しているため、十分な国土強靱化投資を迅速に推進することが出来ない状況におかれている。

その結果、現在の我が国は、国土強靱化の完了を待つ「前」に巨大災害が発生した場合には、例えば土木学会が試算しているように、多くの国民の生命が失われると同時に、数百兆円、数千兆円規模の大規模な経済的被害がもたらされ、アジアの「最貧国」の一つにまで没落しかねない現実的リスクが懸念される状況となっているのである。

われわれは、政権与党自民党の若手議員として、国民生活の安心安全を確保する責任の一端を担うべき立場にある。私たちは、こうした最悪の悪夢を回避し、巨大災害の脅威から国民を守り、国家の没落を回避するために必要な「国土強靱化投資」が迅速に推進可能な財政措置について、下記を提言する。

1.国土強靱化「投資」は、「国債」を財源とすべきである。

国土強靱化投資の便益は、長期にわたって将来の国民が享受するものである。したがって、「受益者が負担すべし」との受益と負担の一致性の観点から、複数世代が公平に負担する「国債」で充当することが適切である。

2.国土強靱化「投資」については財政規律の「例外」項目とすべき

国土強靱化投資は速やかに完了すればするほどに、その便益を享受する期間が拡大する。そのためには、可及的速やかな「大規模投資」を行い、早期に完了させることが合理的である。

にも関わらず、プライマリー・バランス等の財政規律に配慮して投資水準を抑制すれば、完了時期が遅くなり、その間に訪れる数々の災害で死亡する国民が拡大し、経済被害も財政被害も拡大し、国難に陥り国家が没落するリスクが極大化する。

したがって、災害が訪れる「前」に投資を完了させることを企図し、国土強靱化の「投資」をプライマリー・バランス等の財政規律の「例外」項目とすることが必要不可欠である。

なお、例外項目とすべきか否かについては、EBPM(Evidence Based Policy Making)の概念に基づいて、図5に示した考え方で、災害リスク、投資効果で規定される「国債発行による早期投資のメリット」と、国債金利で規定される利払い費を比較衡量するという方法が考えられる(なお、このメリットと利払い費の比較衡量に基づく国債発行投資の合理的判断は、国土強靱化投資に限らず、あらゆる「投資」について妥当する概念である)。

3.財政法で定義される「公共事業費」を「公的投資」に改めるべきである。

防災「投資」には多様なものが考えられるが、現行の財政法では、公的な設備投資や民間防災投資の公的補助など、その便益を長期に発現する資産を形成するものの、公債発行が法的(財政法四条)にて現在是認されている「公共事業費」とは異なるものもあり、結果、特別の法律制定が必要となる「特例国債」での充当が必要となるケースも多い。ついては円滑な防災投資の推進のために、財政法第四条における「公共事業費」を「公的投資」に改め、合理的な投資を円滑化し、加速することが必要である。

財政法第四条の規定は第一項において「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。」とし、第三項で「公共事業費の範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない。」とある。

国民生活の安心安全を確保し、経済発展の基盤となる各種の「投資」を「公共事業費」という文言で表現し、毎年の予算編成においてその年に投資すべき範囲と金額について検討すべきであり、その財源は国債を充当すべきである、と考えるのが、この条文の本来意図するところではないか。

したがって、「公共事業費」改め「公的投資」には、防災投資のみならず、将来の経済発展の基盤となるインフラ整備、日本社会を支える人材育成のための教育投資、国の存立を確保し国民生活の安心・安全を守るための防衛投資等も含まれるべきである。

なお、これにあわせて、これまでの「建設国債」という呼称を「投資国債」と改めるべきである。

4.地方自治体が所管する投資事業につき、国の責任を明確化し、国庫負担の拡大と国債活用をすべきである。

地方財政の逼迫により、地方自治体が行うべきインフラ整備がおろそかになっている。防災投資はもとより、生活の基盤となる上下水道、道路・橋梁・トンネル、学校施設等の耐震化・老朽化が長年の課題となっている。このままでは、大阪北部地震で一部顕在化したように、災害時にこれらのライフラインが一気に破壊され、国民生活の復旧にも甚大な影響が出ることは必定である。

これらの被害を最小限にとどめるためにも、国の責任を明確化し、地方自治体の行う国土強靭化投資についても、国庫負担率を大幅に拡大するとともに上記「投資国債」の範囲に含め、国・地方総力を挙げて国民生活の安心安全の確保に全力を注ぐべきである。

5.国土強靱化の早期完了を促す財政についての臨時特別措置が必要である。

以上の1.~4.の考え方に基づいて具体的に国土強靱化を推進するため、事業量と投資額が明記された強靭化計画(10年~15年)の策定と財政措置を、例えば閣議了解や立法等の形で、特別に定めることが必要である。


【図1】日本は今、「異常気象」の時代。豪雨頻度が激増し、災害が毎年発生。
※ 諸外国は500年から1万年に一度の災害対策がほぼ完了している一方、我が国は200年に一度の災害対策が三分の二しか終わっていない。しかも、投資額は、日本でだけ半減以下。
【図2】我が国の「治水整備率」も「治水速度」も先進国の中で著しく低い
※出典:土木学会『「国難」をもたらす巨大災害対策についての技術検討報告書』、2018.
【図3】 我が国を襲う「国難級」の自然災害の被害推計
※出典:土木学会『「国難」をもたらす巨大災害対策についての技術検討報告書』、2018.
【図4】 「国難級」の自然災害の被害は、適切な「投資」によって3~10 割程度縮減可能
この「合理性」が「利払い費」を上回る限りにおいて「防災ローン」が合理的
【図5】 防災対策における国債(防災ローン)の合理性

参考:財政法第四条

国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。

前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす場合においては、その償還の計画を国会に提出しなければならない。

第1項に規定する公共事業費の範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない。


具体的な事業の例

【高速道路整備の加速】

【新幹線網整備の加速】

【大規模地震対策の加速】

【豪雨対策の加速】

【地方創生】